エディンバラにある中華系食料品店に行った時、ついでに買ってみたこの雑誌。
無意味なことに全ページカラーで、一冊£2(約350円)。スカスカな内容から行って、あまり安くは無いお値段である。
英国に住む日本人向けには、広告収入で発行されているフリー・ペーパーが5、6誌発行されているが、中国語で無料配布されいているのは仏教の布教用新聞だけ。旧英国領・香港からの移民もあり、英国における中国人コミュニティーはかなりの規模だと言うのに、中国人同士の横の繋りは、個人レベルで留まっている様だ。
この雑誌は、ヨーロッパ各地で発行されているらしいが、英国版の場合は、イギリス国内の記事がメインに据えてある。
私の購入した4月号の目玉は、
「中華料理のテイク・アウェイ・ショップ(持ち帰り専門店)を営む夫婦が、英国人乳母に一人息子を略奪された!」という記事であった。記事の内容を要約してみると・・
「英国に住む華人(中国大陸出身か否かに関わらず、中華系の血をひく人々)の大多数は飲食産業に従事している。
就労時間が長く不規則なのと、“子どもには英語を身につけて、英国の社会に完全に溶け込んでほしい“という親の意向から、子どもを英国人に預けっ放しにしておくケースが多い。
しかし、英国の法律では、朝から晩まで三年以上に渡って子どもの面倒を見た人は、その子を養子として引き取る権利があると明文化されている。
そんな法律を知らずに子どもを預けっ放しにしていた為に、14歳になる一人息子を英国人女性に“略奪”されてしまった夫婦の実情に迫る。」
この話の主役は、エクスターという場所で「お持ち帰り中華の店」を営む陳夫婦。
現在、江澤民やトニー・ブレア首相、BBC放送、「TIMES」誌などに、「我が子を返してください!」と訴えているらしいが、記事を読んでいると、あまり同情の余地がないんだよなぁ〜。
彼ら夫婦は31年前に香港から移民してきて、1987年に息子Lが誕生。
しかし、当時は自宅で病人の介護をしていた関係もあり、子どもの面倒を見る時間が全く無く、近所に住むSという英国人女性に、週40ポンド(約7000円。「学費や食費は別」と言っているが、それにしても異常に安くないか?)で子どもを預け始めた。
「一週間に三回は、S婦人はL君を連れて夫婦の働いている中華レストランで、タダで昼食を食べていた」、「時々Sの親戚も来て、タダ飯を食っていた」などと書かれているが、「フルタイムで一週間に7000円」なんて激安の給料で子どもの面倒を見てもらっておいて今さらそんな事を言うのは、ちょっとセコいんじゃないか?と思う。
しかも、1年2年ならともかく、14年間である。子どもだって、S婦人になついて当然だろうが。
S婦人がL君を養子にしようと思い立ったのは、L君の実親の夫婦仲が悪く、ダンナが奥さんに暴力を振るい、二人が離婚調停に入ったのがきっかけだった様だ。
S婦人は現在66歳で独身。
以前は看護婦として働いていたそうで、実子は居ないが子どもの面倒を見る事はとても上手で、L君の他にも、知能障害を抱える女の子を引き取って育てているという立派な女性である。
記事を読む限り、どう考えてもS婦人側には非がないと思う。ど
んな事情があるにせよ、14年間もほとんど息子の世話をせず、取られそうになったからと言って騒ぎ立てる権利は無いんじゃないか?
しかし、そこはそれ、「骨肉の関係以上に重要なことなど無い」のが絶対信条の中華系の人々。
この記事でも、「血は水よりも濃し」(「血濃於水」)とか、「子どもは自分の体から落とした肉」(「自己身上掉下来的肉」)などとしつこく書かれていた。
あまつさえ、
「S婦人が子どもを引き取ったのは、全て彼女のエゴから来ている。
彼女は子どもを産んだことが無いから、他人の子どもを育てて母親気分を味わいたいという欲望を満足させたかったのだ。
彼女が知能障害の子どもを引き取ったのは、そうすれば政府からの金銭的援助があてにできるからだ」(陳夫婦の長年のビジネス・パートナーである男性談)
などという偏見に満ちた意見まで書かれていた。
こんな事を平気で言う人こそ、子育てなんかしたこと無いんだろうな、と思う。(私も無いけど。)
健常児を育てるのだって簡単な事じゃないのに、政府からの福祉援助だけを目当てに知的障害のある子どもを引き取るなんて、どう考えたって有り得ない。
この人たちは、「実子でない子どもを養うなんてキチガイ沙汰は、何か打算があっての事に違いない」という意識から、絶対に逃れられないんだと思う。
記事を読んでいて、「これってスゴ〜く中国人的な発想・・」と思った点は他にもある。
養子になったL君の事を、「生まれた時から今に至るまで、行儀もよく、学業も優秀、健康で活発な美少年」(だから、S婦人は彼を養子にしたかったのだ)としつこく強調し、「彼の去年の成績は、16科目でA、今年春の成績は、9科目中6科目でA,3科目がBという優秀さ」などと書いた上に、彼の通信簿までデカデカと掲載しているのだ。
S婦人が彼を養子にしたくなったのは、あくまで「L君は出来が良くてハンサムだったから」と言いたいらしい。
ハッキリ言ってバカバカしい。L君が成績優秀かどうかなんて事にこだわっているのは、中国人の実父母の方ではないか?
S婦人は、例えL君がバカでも不細工でも彼を可愛がっていただろうし、養子にする事にためらいは無かっただろうと思う。
そう言う気持ちが、理性を以ってしても理解出来ない点で、既に彼らはS婦人に負けているのである。
あと、「一人息子」を強調する点ね。
台湾では、未婚の娘が死んだところで、お墓も位牌も作ってもらえないぐらい、女の子には価値が無いと見なされている。
中国大陸の場合、「一人っ子政策」のせいで、「一人しか産めないなら男の子」という図式が定着。
お腹の子どもが女の子だとわかるや堕胎に走る親も少なくないと聞く。実際、現在の中国の出生率の男女比を見ると、男の子の出産率が異常に高い。
台湾、大陸、海外に住む華僑を問わず、華人社会では、「息子が居ない=おかわいそうに・・」という図式に疑いを抱く人すら居ないぐらいだ。
陳夫婦の子どもがもし女の子だったら、果たしてこんなにまで大騒ぎしていただろうか?と思うと、かなり疑問である。
陳夫婦だけでなく、血のつながりだけに依存して子どもを自分の支配化に置こうとする中国人(及び、日本人も含め、儒教思想の影響下にある東洋人)が、欧米の価値観の中で育つ子どもを血でからめとる事は、そんなに簡単な事ではないだろう。
略奪なんかされなくても、子どもは自発的に愛情のある方に行く。
「赤の他人」に全てを任せっぱなしにしていた陳夫妻は、「実の息子」であるL君に捨てられたのだ、と私は思う。
私の知り合いの中には、子どもを親戚に預けながら、英国で働き仕送りをしている中国人女性が二人居る。
子どもを長期に渡って人に預け出稼ぎをするのは、中国大陸ではごく普通のことだ。
しかし、祖国なら問題とされない状況も、価値観の違う世界ではとんでもない結果を引き起こすことになりかねない。
今回紹介した様な事件だけでなく、移民にまつわる悲劇のほとんどが、そういう点に集中している様な気がしてならない。
(2002.4.23記)